誰にも頼らず柔道弐段へ。孤独な挑戦が静かに自分を強くした

ひとり健康

柔道二段の昇段試験。
会場へ向かう電車の中、握ったスマホの画面は何度見返しても同じ。「受付 9:00」「試合開始 10:00」。
当たり前だけど、そこに“誰かと行く”という一文はない。
今日は、完全にひとりだ。

試験会場は体育館特有の少し湿った空気で、入り口では黒帯の受験者が黙々と柔軟をしていた。
名前を呼ばれても返事が小さくなる。
「…はい。」
緊張で喉が固まっていた。

準備運動の時間。
周囲では指導者や仲間に見守られながら会話をしている受験者が多かった。
自分だけ、ぽつんとストレッチ。
だが、その孤独感が逆に懐かしかった。
柔道を始めた中学生の頃、部活が終わった後にひとりで道場へ残って畳に向き合っていた時間──あの“静かな集中”が戻ってくる。

最初の項目は形(かた)。
二段ともなると動きの精確さを見られる。
相手との呼吸を合わせる必要があるが、今日はペアが初対面。
心配したが、意外と数回の確認で呼吸が合った。
本番、静かな体育館に「踏み込む音」「打ち込む音」が響く。
練習より、少しだけ美しい動きができた気がした。

次は実技。
いわゆる乱取り形式の審査だ。
相手は経験年数10年以上の黒帯。
握った瞬間に、腕の強さでレベルが分かる。

「これは…やり応えあるな」

最初の30秒は耐えるだけで精一杯だった。
だが、チャンスは突然くる。
相手が片方の足に重心を乗せすぎた瞬間、体が反射で動いた。

大外刈り——。

畳に響く音。
相手の背中がしっかり落ちた。

自分でも驚いた。
あの一瞬の判断は、たぶん誰にも見られていなくても誇れるものだった。

残り時間、相手に一本を取り返されることなく終了。
大きく息を吐いた瞬間、体が軽くなる。
緊張がゆっくり汗へと変わっていった。

審査発表は体育館の端のホワイトボードに貼り出された。

「…………えっと……」

自分の番号を見つけた瞬間、数秒だけ時間が止まった。

合格。

叫びたいのに声は出なかった。
けれど胸の奥が、熱く、静かに震えていた。

帰り道、スポーツバッグがやけに軽い。
周りは誰も気づかないけれど、今日、自分はひとつ強くなった。

ひとりで向き合う挑戦は、孤独じゃない。
重い扉を開ける時、見守ってくれる人がいなくても
“畳の真ん中に立つ自分”がいる。

あの日の晴れた道を歩きながら、
「また新しい挑戦をしよう」
そう自然に思えた。

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