12月。街はクリスマスソングが流れ、ダウンコートの人が行き交う頃。
普通なら紅葉は終わっている時期だと思われがちだけれど、今年の新宿御苑は違った。
まるで季節が忘れ物をしたみたいに、園内のイチョウがまだ金色に光っていた。
私は思わずスマホを取り出し、レンズ越しにその景色を切り取った。
冬の空気は澄んでいて、シャッター音さえ静かに響く。
歩く速度を落とすと、落ち葉を踏む小さな音が心地いい。
「カサッ……カサッ」
日常の喧騒から離れ、時間がゆっくり流れているような錯覚に陥る。
これだけで来てよかったと思えた。
ベンチにはホットコーヒーを飲みながら本を読む人、
芝生にはカップルが肩を寄せ合って写真を撮っている。
観光客らしい外国人が楽しそうにポーズを決め、その横で小さな子が落ち葉を拾っては嬉しそうに見せていた。
どの風景も、ひとりで見ているのに温度がある。
人がいるから、ではなく季節が優しいからだと思う。
私は散歩が好きだ。
特別な予定がなくても、気が向いた時に靴を履き、電車に乗って好きな場所へ行く。
12月の新宿御苑は、そんなひとり時間にぴったりの場所だったの。
ベンチに腰掛けて一息つけば、冷たい風と陽の光が混ざったような空気が頬を撫で、心まで洗われる感じがする。
ふと、「今年、私はどれだけ前に進めただろう」と考えた。
新しい挑戦、叶えられなかったこと、恋愛、仕事、サイト運営……
色々あった一年を思い返しながら、紅葉を見上げるのだ。
葉は散りつつも、まだ枝に留まって輝いている。
まるで「まだ遅くない」と励ましてくれているようだった。
帰り際、出口近くで立ち止まりもう一度振り返る。
黄金色の景色が風に揺れ、夕陽に染まりながら静かにきらめいている。
12月でも紅葉は残り、私の心にも小さな灯を残してくれた。
ひとりで来たのに、なぜか満たされている。
季節の終わりに、こんな景色に出会えた私は少し救われたのかもしれない。
「また来年も来よう」
小さく呟きながら御苑を後にした。
スマホのアルバムには紅葉の写真。
胸の中には、少しあたたかい思い出。
冬の入り口、新宿御苑はまだ秋色に染まっていた。


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