バレンタインデーの話題が、少し早めに出た。
特別な流れではない。
雑談の延長で、季節の話をしている途中だった。
「今年は、チョコレート用意するね」
その一言は、軽かった。
でも、軽いからこそ、胸に残った。
サプライズではない。
当日まで黙っておくような演出でもない。
前もって、約束されたという事実だけが、静かに嬉しかった。
年齢を重ねると、期待しないことに慣れてくる。
見返りを想定しない。
イベントを特別視しない。
そうしたほうが、気持ちは安定する。
だからこそ、
「ちゃんと用意する」という言葉が、少しだけ心を動かした。
チョコレートそのものが欲しいわけではない。
高級かどうかも関係ない。
大切なのは、忘れられていないという感覚だ。
予定として、未来に置かれた一言。
それがあるだけで、時間の流れが少し変わる。
バレンタインデーまで、
何かを頑張る必要があるわけでもない。
ただ、そこまでの日々が、少し柔らかくなる。
「約束」という言葉には、不思議な力がある。
結果がどうであれ、
約束された時点で、気持ちはもう一度もらっている。
昔は、こういうことを大げさに考えなかった。
当たり前のように受け取って、
当たり前のように過ぎていった。
今は違う。
一つ一つの言葉が、
その人の生活の中から切り取られたものだと分かる。
忙しい日常の中で、
「その日」を意識してくれること。
それ自体が、贈り物だ。
当日、チョコレートを受け取るかどうかは、まだ分からない。
予定が変わることもある。
体調や都合もある。
それでもいい。
この嬉しさは、もう成立している。
誰かに何かをしてもらう喜びは、
物ではなく、
時間と気持ちの配分に宿る。
前もって約束されたチョコレートは、
まだ形になっていない。
けれど、確かに、心の中には届いている。
バレンタインデーは、
特別な日でなくてもいい。
ただ、
「あなたのことを思い出す日がある」
それを知れただけで、十分だった。
だから今日は、
少しだけ、気分がいい。


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