70代になって、人生の速度が少しずつゆっくりになってきた。
朝の散歩は日課だし、階段よりエスカレーターを使う日も増えた。それでも、体はまだ動きたがっている。そんなある日、思い切って新宿のジムに入会した。週に2回、無理なく続けられるペースで筋トレをするためだ。
最初のうちは、慣れないマシンの前で立ちすくんだ。
隣で若い人たちが大きなダンベルを軽々と持ち上げている。私はといえば、5kgのダンベルをゆっくり上げ下げするのがやっとだった。だけど不思議なもので、回数を重ねるごとに、肩の可動域が少し広がった気がしたり、階段の上りが楽になったり、小さな変化が積み重なっていく。
今日も、ベンチプレス、レッグプレス、ラットプルダウン。
重さはまだ軽い。でも、フォームを意識しながら、呼吸を止めずにゆっくり動かすと、筋肉の奥がじんわり熱くなる。若い時のように力任せにやるのではなく、「効いている場所に意識を送る」ことを学んだ。年齢を重ねた今だからこそできるトレーニングの仕方かもしれない。
トレーニングを終える頃には、足は少し震え、手には微かな疲労が残る。
更衣室でベンチに腰掛け、水を飲みながら息を整えると、不思議な達成感が胸に広がってくる。若い頃のような爆発的な回復力はない。帰宅すれば昼寝をしないと体がもたない日もある。だがこの疲れは「老い」ではなく「生きている証」だと思えるようになった。
70代でジムに通うなんて無謀だと言う人もいる。
だが、私にとってこれは挑戦というより「自分の機嫌を取る手段」だ。筋トレをした日は、夜の睡眠が深くなる。夕飯の味も少し良く感じる。風呂上がりのストレッチでは、若い頃の体の感覚がほんの一瞬だけ戻る時がある。それが嬉しい。
続けていると、たまにトレーナーが声をかけてくれる。
「そのフォームいい感じです」「無理はしないでくださいね」
その何気ない一言が、通い続ける理由になる。年齢に関係なく、誰かに認められると、人はもう一歩踏み出せるのだと気づいた。
週2回というペースは、今の私にとって丁度いい。
激しい筋肥大を求めるわけではない。ただ、曲がった背筋を少し伸ばし、自分の足で歩き続けたい。それだけで十分だ。筋トレ後、ベンチに座って飲む冷たい水は、若い頃よりもずっと美味しい。
70代になってからの筋トレは、体だけでなく心にも効く。
疲れる。それでいい。疲れながら、今日も新宿のジムに向かう。
ゆっくりでも前に進めることを、体が教えてくれるのだ。

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