深夜3時だった。
部屋は静かだった。
冷蔵庫の低い音だけが、
ずっと鳴っていた。
スマホの画面を閉じる。
また開く。
閉じる。
また開く。
誰からも連絡は来ていない。
当然だ。
この時間に、
誰かからLINEが来ることなんて、
ほとんどない。
それでも、
人はスマホを見る。
何かが来ている気がしてしまう。
世界と、
まだ繋がっていたいからだ。
窓の外を見ると、
都内のマンションの灯りが少しだけ残っていた。
でも、
あれが何なのか、
もうよく分からなくなる時がある。
誰かが起きている。
誰かが働いている。
誰かが恋愛している。
誰かが人生を進めている。
なのに、
自分だけが、
世界から置いていかれているような感覚になる。
深夜3時は危険だ。
脳が、
現実を悪い方向へ拡張し始める。
昔は、
夜が好きだった。
静かだったから。
誰にも邪魔されなかったから。
でも、
年齢を重ねると、
夜は“孤独”を増幅する時間に変わる。
特に、
好きな人と距離ができた時。
仕事が不安定な時。
将来が見えない時。
人生が思った形になっていない時。
深夜は、
全部を一気に襲ってくる。
この日も、
なぜか眠れなかった。
YouTubeを開く。
ニュースを見る。
AI。
株。
世界情勢。
孤独。
起業。
SNS。
人類の未来。
情報だけが、
無限に流れてくる。
なのに、
心だけが止まっていた。
これが不思議だった。
世界は高速で動いている。
AIは進化している。
若い起業家が何十億を作っている。
誰かが海外へ行っている。
誰かが結婚している。
誰かが子供を育てている。
なのに自分は、
深夜3時に、
コンビニで買った食べ物を机に置き、
ただ画面を見ている。
その瞬間、
妙に思った。
「あれ……人類から取り残されてないか?」
と。
もちろん、
実際にはそんなことはない。
ただの感情だ。
ただ、
深夜3時という時間は、
感情を“事実”みたいに見せてくる。
これが怖い。
孤独感は、
昼と夜で別物だ。
昼はまだ、
社会と接続されている。
電車。
店。
会社。
人の気配。
生活音。
世界が動いている。
でも深夜3時は違う。
世界が停止している。
その静寂の中で、
自分の内側だけがうるさくなる。
ふと思った。
人間って、
本当に“誰か”が必要なのかもしれない。
別に、
毎日会わなくていい。
ずっと一緒じゃなくていい。
でも、
「世界のどこかに自分を気にしている人がいる」
それだけで、
人はかなり違う。
逆に、
その感覚が完全に消えると、
人は静かに壊れていく。
深夜3時は、
そこを突いてくる。
昔、
もっと未来は明るいと思っていた。
努力すれば、
人生は上向くと思っていた。
年齢を重ねれば、
自然に安定すると思っていた。
でも実際は違った。
人生は、
ずっと未完成のままだ。
不安も消えない。
孤独も消えない。
「これで完成」
みたいな瞬間は、
たぶん来ない。
大人になるほど、
それを理解してしまう。
その時、
急にAIのことを考えた。
これからの時代、
AIは人間より、
ずっと賢くなるかもしれない。
仕事も奪うかもしれない。
人類の構造を変えるかもしれない。
でも、
この“深夜3時の孤独”だけは、
たぶん完全には理解できない気がした。
いや、
言語としては理解できるかもしれない。
データとしては分析できるかもしれない。
でも、
胸の奥が沈む感覚。
世界から切り離される感覚。
「自分だけ止まっている」
と思う感覚。
あれは、
人間だけのものな気がした。
コンビニの温かくない弁当を食べながら、
ぼんやり思った。
それでも、
人は生きていく。
不安を抱えたまま。
孤独を抱えたまま。
答えがないまま。
たぶん、
みんなそうなのだ。
SNSでは見えないだけで。
そして少しだけ、
安心した。
自分だけじゃないのかもしれない。
世界中で今、
眠れない人がいる。
誰かを忘れられない人。
人生をやり直したい人。
孤独に耐えている人。
未来が怖い人。
みんな、
静かな部屋で、
何かと戦っている。
そう思ったら、
ほんの少しだけ、
呼吸が楽になった。
時計を見る。
3時47分。
空はまだ暗い。
でも、
少しだけ思った。
朝は来る。
たぶんまた、
普通に電車が走り、
コンビニが開き、
人類は動き続ける。
自分だけ取り残されたように感じても、
世界は終わらない。
だから、
とりあえず今日は寝ようと思った。
完璧じゃなくていい。
答えも出なくていい。
ただ、
深夜3時を超えればいい。
人生には、
それだけの日もある。


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