「ワインって、なんだか難しそう。」
そんなイメージをずっと持っていた。
コンビニやスーパーで並んでいるのは見ていたけれど、種類が多すぎる。赤ワイン、白ワイン、ロゼ。さらに「フルボディ」「ミディアムボディ」「辛口」「渋み」なんて言葉が並び、結局いつも缶ビールやハイボールを手に取ってしまう。
でも、ふとした夜に思った。
「50代になったし、一度くらいワインを飲んでみてもいいんじゃないか。」
そんな軽い気持ちでAmazonを開いた。
「濃い赤」「ミディアムボディ」という言葉だけで選んだ
正直、産地もブドウの品種も知らない。
レビューを読んでも、
「ベリーの香りが広がる」
「タンニンが絶妙」
と言われても、何のことかよく分からない。
だから私は、いちばん直感で選んだ。
「濃い赤」「赤ワイン」「ミディアムボディ」。
なんとなく、「濃い」という言葉に惹かれた。せっかく初めて飲むなら、少しだけ大人っぽいものを選びたかった。
Amazonで注文ボタンを押した瞬間、不思議な高揚感があった。
高級ワインでも何でもない。数千円もしない一本だ。それでも、自分が今まで手を出さなかった世界に、一歩だけ足を踏み入れた気がした。
届くまでの時間も、少し楽しい
翌日、配送状況を何度も見てしまった。
「発送されました。」
「最寄りの配送拠点に到着しました。」
たかがワイン一本なのに、子どもの頃にゲームソフトが届くのを待っていたような感覚に近い。
ソロで暮らしていると、日常は意外と同じことの繰り返しになる。
仕事へ行って、帰ってきて、夕食を食べて、動画を見て、寝る。
でも、そのルーティンの中に「明日は初めてのワインが届く」という予定がひとつ入るだけで、少しだけ毎日が変わる。
ひとり暮らしは寂しいと言われることもあるけれど、こういう小さな楽しみを自分で作れるのも、ソロライフの良さなのかもしれない。
ワインに詳しくなくてもいい
届いた箱を開ける。
ラベルを眺めても、やっぱりよく分からない。
テレビや映画では、ワインをグラスに回して香りを確かめたりしているけれど、そんな知識はない。
グラスも、特別なワイングラスではなく、家にあった普通のグラスを使った。
少しだけ赤黒い液体を注ぐ。
部屋の照明に透かしてみると、思ったより深い色をしていた。
「これが『濃い赤』か。」
そんなことを考えながら、ゆっくりと一口飲んでみた。
「うまい」より先に、「これがワインか」と思った
最初の感想は、正直に言えば、
「思っていたより渋い。」
だった。
ジュースのように飲みやすいものを想像していたわけではないが、舌に残る独特の苦味や香りに少し驚いた。
でも、二口、三口と飲んでいるうちに、不思議と慣れてくる。
むしろ、その少し複雑な味が気になり始める。
「ああ、これが大人がワインをゆっくり飲む理由なのかな。」
ビールのように喉越しを楽しむ酒ではなく、一口ずつ味や香りを感じながら、時間そのものを楽しむ飲み物なのかもしれない。
ひとりだからこそ、ゆっくり味わえる
誰かと飲みに行くのも楽しい。
居酒屋でワイワイ話しながら飲む酒も悪くない。
でも、この日のワインは、一人だったからこそ良かった。
テレビを消して、スマホも少しだけ置いて、静かな部屋でグラスを傾ける。
外からは車の音が聞こえる。
窓の外には夜の街の灯りがある。
そんな何気ない風景が、ワインを飲んでいるだけで少しだけ特別に見えた。
50代になると、「新しいことを始めるのは遅い」と考えがちだ。
でも、ワイン一本でこんなに新鮮な気持ちになれるなら、まだまだ知らない世界はたくさんあるのだろう。
Amazonで買うという気軽さ
もし、ワインショップへ行っていたら、私は買えなかったかもしれない。
店員さんにおすすめを聞かれても困るし、周りのお客さんが詳しそうに見えて、少し気後れしてしまう。
でもAmazonなら、誰にも見られない。
レビューを見ながら、自分のペースで選べる。
「初めての人にも飲みやすい」
「普段ワインを飲まない人にもおすすめ」
そんなコメントを読みながら、自分に合いそうな一本を探す時間も意外と楽しかった。
最近は、何でもネットで買える時代になった。
だからこそ、今まで興味があったけれど挑戦できなかったものにも、気軽に手を伸ばせる。
ソロライフとネット通販は、案外相性がいい。
「好きになるかどうか」より、「試してみた」が残る
この先、私はワイン好きになるかもしれないし、次はしばらく飲まないかもしれない。
もしかしたら、「やっぱりビールの方が自分には合うな」と思うかもしれない。
でも、それでいい。
大事なのは、「やってみた」という経験が残ることだ。
若い頃は、新しいことに挑戦するのが当たり前だった。
初めての仕事、初めての街、初めての恋愛。
年齢を重ねるにつれて、安心できる選択ばかりをするようになる。
だからこそ、Amazonでワインを一本買うだけでも、小さな冒険になる。
ソロログとして残しておきたい夜
振り返ってみれば、特別な夜ではなかった。
高級レストランに行ったわけでもない。
高価なヴィンテージワインを開けたわけでもない。
部屋で一人、Amazonで買った「濃い赤のミディアムボディ」の赤ワインを、静かに飲んだだけ。
それでも、この夜はたぶん記憶に残る。
「50代で初めてワインを買った夜。」
人生を大きく変える出来事ではない。
だけど、こういう小さな出来事を大切にできるようになったことが、ソロで過ごす時間の豊かさなのかもしれない。
次は、チーズを買ってみようか。
それとも、ワイングラスを一つだけ新調してみようか。
そんなことを考えながら、グラスに少しだけ残った赤ワインを口に運ぶ。
はじめて飲むワインの味は、まだよく分からない。
だけど、「知らなかった世界を一つ知った」という満足感だけは、確かに心の中に残っていた。


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